あらかき

躁鬱の即席遺書

UNTIL EVERYTHING GOES WRONG

飛び出た音は、瑞々しい、エネルギッシュな、かつてのB-Flowerが帰ってきたような曲であった。一曲目。イノセンスミッションは、正にB-Flowerの帰還を象徴する曲である。

「何もかもが駄目になってしまうまで」というタイトルからは、想像できないようなポップで微笑ましくなるような楽曲である。続く2曲目。SPARKLEは、「わかんないの?」と挑発的なスタートで始まり、パンクのような有り余ったパワーをぶつけてくるような印象を受けた。22年間、必ずしも良いことだけでは無く、谷も律儀に降ってきたであろう彼等。しかし、「なんだと?この野郎」と噛み付いてくるような棘を捨てずに大事にしてきた彼等の観た景色は、確かにまだまだ坊やの僕には「分からない」彼等だけの景色が広がっているのであろう。

3曲目。Another Sunny Dayは、イントロの日差しを浴びずにはいられなかった。そうそう、これこれ、と思うB-Flowerらしい楽曲だと記憶している。八野英史さんの歌詞は、綴ってきたそれが美しく輝いているのにうっとりしていると、脇腹からいきなり刺してくる「刃物」がある。これがとても爽快な印象を覚える。隠していた爪をピンポイントで活用している。八野英史さんの歌詞の魅力の一つだと思う。

新生B-Flowerの特徴の一つとして、今まで行わなかった直接的な表現が挙げられる。そのうちの一つである、僕は僕の子供達を戦争へは行かせない。現代社会において危惧するべき人災。平和ボケし、安心し切っている我ら日本国民であるが、それを良しとせず、今まで行わなかった叫びを聴くことが出来る。しかしB-Flowerというバンドは何もクールを気取っていた訳ではない。煮えたぎった情熱や想いが、滲み出るバンドである。問題作、と呼ぶのは無理もないが、この楽曲は確実に今後のB-Flowerの歩む道を確立している。

このアルバムには、インストが2曲入っている。Morning Dewはそのうちの1曲だ。琉球王国の民である僕には、頭で分かっても身体で鳴らすことのできない音だと認識した。これは大和民族の曲だと思った。とても短い曲だが、新生B-Flowerの新しいピースとして、非常に興味深い楽曲である。そのあと聴こえる、気怠さを覚える楽曲。つまらない大人になってしまった、という楽曲は、これまでのB-Flower、そして輝きを失ってしまった大人としての「枯れた」大人達の楽曲という印象がある。元々B-Flowerの楽曲は、曲はポップで歌詞は暗いといった大まかな特徴があった。楽曲の印象で、ここまで「枯れた」印象を覚えるのは驚いた。「つまらない大人になってしまった」というあくまでも他人事、3人称視点で見る自分、という存在を綴った歌詞。八野英史さんの歌詞の魅力の一つだ。自分の事を他人事のように受け取ってしまう僕は、共感と、妙な居心地の良さを覚えてしまう。言葉で説明し難い魅力が、八野英史さんの歌詞にはある。

それから一転して明るく前向きなイメージの強い「自由になりたい」は、YouTubeで聴いたのが最初で、CDが届いて聴いてる際、これも新曲だったんだ、と思ったのが正直だった。というのも、あんなエネルギーの湧いた楽曲は、脂ののった時期の楽曲だと認識するのが無難だと思ったからだ。てっきり、インディーズの頃の楽曲だと思っていた。なるほど、B-Flowerは、未だに鮮度が落ちていないのである。瑞々しい、エネルギッシュなギターリフとリリック。続く「君に触れたら」という楽曲も、B-Flowerというバンドの今までの良さを大事に包み込んだような曲である。ほんのりと漂うダークでポップな雰囲気。これぞ、正しく。

Gentle Outsiderは、このアルバムに収録されているもう一つのインストである。ギターの美しく繊細なアルペジオハーモニクス、やはりどこか枯れたような寂しいような。そんな印象を受ける楽曲である。永遠と続くアルペジオは、先程の曲の「最低でダークな日々は終わるの?」といった訴えを奏でているような印象も受ける。そして「純真」という楽曲へと続く。僕はこの楽曲が大好きだ。シングルバージョンとは違い、ストリングスが控えめで、アコースティックギターアルペジオがとても耳に入ってくる。新生B-Flowerの魅力のひとつである直接的な表現が、ここでも遺憾無く発揮されている。とても上品で、美しい楽曲である。僕も、こんな楽曲を作りたいと溜息をこぼしてしまう。

そしてこのアルバムは「葉桜」で幕を閉じる。あっという間に過ぎゆく時間。生き急ぐ我々のように響くギター。「また春が過ぎて行く」と始まる。思えば今年は驚くような出来事が沢山起きた。それらが今後も続いて行く気もする。それこそ、何もかもが駄目になってしまうまで。しかし、B-Flowerはネガティブに終わらなかった。まだどこまでも行くと綴った。何もかもが良くなるまで。そうだ。僕の人生も始まったばっかりだ。何度春が過ぎようが、自分の莫大な道を走って行く覚悟は出来ていた筈だ。B-Flowerに背中を押されるのは、新鮮な気持ちがする。でも、悪くない。どこにだって行ってやると、歌っている。それが「何もかもが駄目になってしまうまで」であっても「何もかもがうまくいく」と信じて。